ZINE / Studio Log
高松に引っ越して Fragment Practice を静かに始めてみて
Studio Log / 2025-11
家族の事情で高松に移り、Fragment Practice という小さなスタジオを立ち上げました。その裏で考えていたことのメモです。
高松に引っ越してから、時間の流れ方が少し変わったように感じています。
東京にいた頃は、案件と移動とミーティングがぎゅっと詰まっていて、
「生活の中で考える」というよりも、
「生活とは別に、考える時間をどこかでひねり出す」という感覚が強かったです。
いまは、朝は子どもと公園に行き、
お昼の静かな時間に作業をして、
夕方にはまた生活のリズムに戻ります。
その合間に、ぽつぽつと断片的な考えごとが落ちてきて、Fragment に溜まっていきます。
移動がほとんどないぶん、
一日のあちこちに「空白」が残りやすくなりました。
その空白が、Fragment Practice を組み立てるうえで
自分にとってはとても大きな要素になっているように思います。
Fragment Practice を始めた理由
スタジオを始める前の 5 年ほどは、
コンサルタントとしてセキュリティや IT-BCP を軸に、
組織の「守り」と「仕組みづくり」に関わる仕事をしていました。
一方で、現場に長くいるほど、こんな違和感も強くなっていきました。
- 会議やメモが散らかりすぎて、何から手を付ければいいか分からない
- ドキュメントはあるのに、誰も読めず、誰も更新しない
- 「AI に任せよう」と言う前に、そもそもの土台が整っていない
- その土台をつくるための言語や構造が用意されていない
最終的にたどり着いた仮説は、
「日々の断片とドキュメントこそが、人と AI をつなぐ一番のインターフェースになるのではないか」
というものでした。
Fragment Practice は、この仮説を
いきなり大きく事業化するのではなく、
自分の手が届くスケールで、静かに・丁寧に検証していくための
小さなスタジオとして立ち上げた場所です。
高松での暮らしと、思考のリズム
高松に来てから意外だったのは、
生活のリズムがそのまま思考のリズムに影響する、という当たり前の事実でした。
- 朝の光の入り方
- 子どもの機嫌や体調
- 夕方の風や潮の匂い
- 家の中の生活音の密度
そういったものが、思考の「深さ」や「速さ」を、
目に見えないかたちで少しずつ変えていきます。
Fragment Practice の言葉の中に
「リズム」という語がよく出てくるのは、
この暮らしの変化からの影響がとても大きいです。
都市のスピードが悪いわけではまったくありませんが、
思考の「構造」をつくるときには、
この一瞬の空白や、ゆらぎのようなものが効いてくるのだなと、
高松に来てからあらためて感じています。
Fragment System を作りながら考えていること
いま進めている Fragment System は、
YAML と Markdown を組み合わせて、思考や会話の流れを
AI と共用しやすいかたちにしていく仕組みです。
- まずはテキストとして書く
- 必要なときに YAML で「場面」や「流れ」を定義する
- それを AI にそのまま渡せるようにしておく
という、かなり地味だけれど骨太な設計を目指しています。
プロンプトを一発勝負で書くというよりも、
「プロトコル」や「役割」そのものを一緒につくっていく 感覚に近いかもしれません。
これは、高松に来て時間ができたから急に思いついたものではなく、
ここ数年の仕事の中で感じてきた「ねじれ」の集約でもあります。
- 情報量は増えているのに、判断はむしろ難しくなっていること
- AI は賢くなっているのに、会議のしんどさはあまり変わらないこと
- 個人の負荷は減らないのに、知識や経験の体系化は後回しにされがちなこと
こうした矛盾を少しでもほどいていくには、
「書き方」や「考え方」を、AI と共有できる構造にまで落とし込む必要があると感じています。
Fragment System は、そのための一つの試みです。
高松の静かな時間がなければ、ここまで踏み込んで設計することは
自分には難しかっただろうな、とも思います。
家族との時間から学び直していること
高松での暮らしの中で、家族との時間の扱い方も大きく変わりました。
子どもを抱っこしながらコードを書いたり、
洗濯機が回っている間に文章を整えたり、
公園のベンチでメモを書いたりといった具合に、
生活と仕事がきれいに切り分けられない場面が増えました。
以前の自分は、どこかで
「まとまった時間がないと、まともなアウトプットは出せない」
と思い込んでいた節があります。
でも実際には、
断片のままのメモや気づきを、後から拾える形にしておけば、
生活と仕事をきっちり分けなくても、
むしろ全体としてうまく回ることもあるのだと感じています。
大事なのは「完璧なまとまった時間」ではなく、
- 断片をそのまま受け止められる仕組みと、
- その断片にあとからアクセスしやすい構造
なのかもしれません。
Fragment という名前には、
そうした「断片のまま大事にする」という姿勢も込めているつもりです。
静かに始めて、じわじわと動き始める
高松に来てからまだ日が浅いですが、
Fragment Practice は少しずつ形になってきています。
- スタジオとしてのサイトを整えつつ
- Fragment System の試作と実運用を進めつつ
- Prism Protocol の原型を言語化しつつ
- こうした ZINE のような文章で経過を残しつつ
- 家族のリズムと自分の仕事のリズムを調整し続ける
東京にいたままのスピード感では、
この「構造の部分」まで手を入れる余裕は
自分にはなかったかもしれません。
いま選んでいる速度は、派手さはありませんが、
そのぶん長く続けられるだろうという手応えもあります。
ゆっくり続けていくための、小さな温室として
Fragment Practice は、
自分にとっては「思考の温室」のような場所です。
- 日々の断片をちゃんと受け止めること
- 生活と仕事のリズムを、どちらか一方に寄せすぎないこと
- そのうえで、構造やプロトコルの強度を上げていくこと
- 人と AI の協働を、雑にせず、誠実に設計していくこと
こうしたことを、家族との暮らしの中で試しながら、
静かに更新していくスタジオでありたいと思っています。
これからも、ZINE と Fragment をベースに、
少しずつ輪郭が変わっていくはずです。
急いで大きくするのではなく、
長く続けられる速度で、
静かに、でも確実に積み上げていきたいと思います。